1. 同じ試合を見ているのに、なぜ「感情」が違うのか?
- はじめに
FIFAワールドカップという世界的メガイベント。日本中が同じ画面を見つめ、一喜一憂する瞬間ですが、実は「どのSNSを開くか」によって、そこに広がる熱量や感情の種類は大きく異なります。
例えば、SNSでの誹謗中傷はスポーツ界でも深刻な問題になっています。公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)は「アスリートへの誹謗中傷に対する共同声明」を発表し、「SNSにおける誹謗中傷は、アスリートの心身に深刻な影響を及ぼすことから、迅速かつ厳格に対応する必要」がある、としています。JOCに限らず、アスリートの所属するチームや団体が発表した同じような声明を、みなさまも一度は見たことがあるかもしれません。
もちろん、誹謗中傷とは相反するポジティブな投稿も同様に存在します。例えば、「推し活」はスポーツと最も相性の良い文化かもしれません。また、ショート動画全盛の今、躍動感のあるスポーツのハイライトシーンは、最も再生回数が伸びるカテゴリでもあります。
では実際に、SNSではスポーツに関してどのような投稿がされているのでしょうか?プラットフォームごとにどのような違いがあるのか?本記事では、2026年の6月から7月にかけて行われたFIFAワールドカップの日本代表戦を対象に、SNSのデータを抽出、分析してみました。
- 分析について
ツール :SEARCHLIGHT「Context Ingelligence」
対象SNS :X、Threads、TikTok、YouTube、Webメディア
抽出期間 :6/12-7/5
収集投稿数 :22,209件
解析対象投稿数:3,466件
解析方法 :関連ワードを設定し、SEARCHLIGHTのツールにて関連する動画およびテキストの投稿、Web上のコンテンツを自動解析。
- ワールドカップについて
まず、FIFAワールドカップ2026年の改めてサッカー日本代表戦を振り返っておきましょう。日本代表はグループステージ(グループF)で3試合を戦い、1勝2分けでノックアウトステージ(決勝トーナメント)へ進出しました。ラウンド32ではブラジル代表と対戦し、惜しくも敗退となりました。
| 試合日 (日本時間) | ラウンド | 対戦カード・結果 | 会場 | 放送・配信 |
| 6月15日(月) 5:00 | グループF 第1節 | オランダ 🇳🇱 2 – 2 🇯🇵 日本 | AT&Tスタジアム (アメリカ) | NHK総合, DAZN |
| 6月21日(日) 13:00 | グループF 第2節 | チュニジア 🇹🇳 0 – 4 🇯🇵 日本 | エスタディオBBVA (メキシコ) | 日本テレビ系列, NHK BS, DAZN |
| 6月26日(金) 8:00 | グループF 第3節 | 日本 🇯🇵 1 – 1 🇸🇪 スウェーデン | AT&Tスタジアム (アメリカ) | NHK総合, DAZN |
| 6月30日(火) 2:00 | ラウンド32 | ブラジル 🇧🇷 2 – 1 🇯🇵 日本 | NRGスタジアム (アメリカ) | フジテレビ系列, NHK BS, NHK BSP4K, DAZN |
近年、サッカーに限らず、スポーツの観戦はSNSと紐づいた体験になっています。当然、日本代表戦のように注目される試合は、リアルタイムでの盛り上がりもSNS大きくなります。では、実際どのような投稿が多いのでしょうか?
2. タイムライン分析:熱狂のピーク
試合当日のSNSの投稿を時間帯別に分析してみました。すると、SNSごとに明確な「利用シーンの違い」が浮かび上がりました。例えば、初戦の6/15のオランダ戦は以下のような推移です。
| X (旧Twitter) | Threads | Webメディア (ニュース等) | |
| キックオフ〜試合中 | 大爆発(全体の約99%が集中) | 小規模なスパイク(連動) | ほぼゼロ |
| 試合直後〜翌朝 | 急激に沈静化 | 緩やかに減少 | 急増(解説記事や報道) |
- X:試合中のリアルタイム実況として機能しており、ゴールやVARの瞬間に投稿が極端に集中していました。
- Threads:試合後から翌朝にかけての「寝不足🫠🫠」「お疲れ様でした」といった、感情の総括や日常への接続が行われる時間帯に共感が集まる傾向が伺えます。
- Webメディア:試合の熱狂が去った数時間後から、勝敗の要因分析や海外メディアの反応といったWeb記事が配信され始め、遅れて情報が拡散される時間差がデータから明確に観測できました。
3. 感情分析:SNSで分かれる「応援のスタンス」
次に、投稿に含まれる感情(センチメント)をプラットフォーム別に比較しました。
| プラットフォーム | ポジティブ (歓喜・称賛) | ニュートラル (実況・客観) | ネガティブ (批判・落胆) |
| Threads | 67.2% | 23.6% | 9.6% |
| X (旧Twitter) | 39.6% | 56.9% | 3.5% |
| Webメディア | 40.3% | 55.5% | 4.2% |
【分析インサイト】
- Threads:全体の6割以上がポジティブな感情で占められています。「寝不足だけど応援する」「感動した」といった、前向きな共感や感情を共有する投稿がメインです。
- X:(意外にも)Xは、冷静な戦術論と実況が最も多く、感情的には「ニュートラル」が最多でした。これは「〇〇選手交代」「今のフォーメーションは…」といった事実に基づく実況や、コアファンによる戦術分析が多くを占めているためと考えられます。
- Webメディア:ニュース記事やコラムが主であり、事実報道や冷静な戦術分析が中心のため、ニュートラル(客観的)な割合が高い結果となりました。
4. キーワード分析:何が語られているのか?
各プラットフォームで頻繁に語られた言葉(頻出キーワード)に注目すると、関心事の違いが鮮明になりました。キーワードのカテゴリ別に振り返ってみました。
固有名詞
- 最も投稿された名前は「森保一」。監督の采配への評価や、戦術論が白熱する傾向にあると思われます。
ミーム系
- 「解説」に注目。このワールドカップでは、本田圭佑の解説が度々話題になりました。試合の実況解説に加え、感情の乗ったワードも見る人の印象に残ったかもしれません。他にも、「寝不足」「仕事休み」など、変則的な試合時間にもかかわらず試合を追う人々の心情を表す投稿も増加しています。
5. まとめ:「SNSの反応」は決して一つではない
今回の分析から見えてきたのは、同じ試合を見ていても、プラットフォームごとに全く異なる「サッカー観戦の文化」が存在しているという事実です。
戦術を深く分析し、リアルタイムの客観的な事実や熱狂を分かち合う「X」。 勝敗にかかわらず、「感動」や「寝不足」といった自身の日常を共有し、ポジティブな余韻に浸る「Threads」。 そして、熱狂が去った後に冷静な要因分析や詳細な情報を提供する「Webメディア」。
冒頭で触れたように、スポーツ観戦においては「SNSでの誹謗中傷」といったネガティブな側面が社会問題としてクローズアップされがちです。しかし、プラットフォームを一つ変えれば、全体の6割以上がポジティブな感情で埋め尽くされている、温かい応援の空間も確かに存在しているのです。
私たちはニュースなどで「SNSの反応」や「ネットの声」と一括りにして語ってしまいがちですが、実際には「どのプラットフォームで、どのような文脈で語られているか」によって、その景色は180度変わります。
次に日本中が熱狂するメガイベントが訪れたとき。あなたは誰と、どんな感情を共有したいですか?「情報のX」「共感のThreads」のように、自分の求めるスタンスに合わせて画面の向こう側の世界を選び取ることで、スポーツ観戦はさらに豊かで心地よい体験になるはずです。
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